博士のCoCに対する歪んだ愛情

Call of Cthulhu。
2020年現在のTRPG界ではとても古い部類に入るルールだ。
Chaosiumが開発したBasic Role Playing Systemに、希代の幻想作家ラブクラフトの世界観を載せたこのゲーム、ホラーゲームだと思っている人が多いと思う。

それはこのゲームの一面を切り取ったにすぎない。

確かに、ラブクラフトの言うコズミック・ホラー…… 宇宙的な観点から見ると人間の営みなど風の前の塵に同じ、預言により星辰正しき刻に至れば死する神々は帰還し、人間の文明社会は破滅する。人間は邪神が目覚めることで奴隷化への道を歩み、今後数千数万年のうちに絶滅し、甲虫類に取って変わられる、そういう世界観はとても退廃的で興味をそそられるものだ。
破滅が約束された世界で、邪神およびその手先と戦ったり太古の神々の秘密を垣間見たり、その結果死んだり発狂したりする。そういう大局的なホラーからのサバイバル的なゲームではある。

このゲームの魅力はそこだけにあるわけではない。
というのも、世界観の元になるべきラブクラフトの書いた本編はそれほど数が多いものではない。ダーレスや後続の作家が直系の世界観の拡張に手を貸したが、あるいは日本では今でも再取り込みを行って傍流として膨張を続けているが、クトゥルフワールドの拡張は、実はあまりこのゲームの世界観の拡張とは関係がない。

このゲームでの作家の描いた世界観からの拡張は、オカルトを取り込むことによって成されたのだ。

そもオカルトとは何だ、という説明が必要かもしれない。
Wikipedia先生に聞いてみよう。

ラテン語: occulere の過去分詞 occulta(隠されたもの)を語源とする。目で見たり、触れて感じたりすることのできないことを意味する。そのような知識の探求とそれによって得られた知識体系は「オカルティズム」と呼ばれている。ただし、何をもって「オカルト」とするのかについては、時代や論者の立場等により見解が異なる。

Wikipedia「オカルト」より引用

オカルトとは、科学による正論に属さない知識体系なのだ。

人間は科学が発展する前から、あるいは科学が発展してもなお、隠された法則、隠された知識に惹かれてきた。ハツカネズミを産むには汚いシャツと小麦粉20粒があれば良い、などという現代的に見ればインチキに類するものが誤った体系化を行われ、流布され、忌むべきこととして迫害されて隠れ潜んだ。
誤解を恐れずに言うなら、科学に対抗する勢力がオカルトなのである。数秘術しかり、魔術だって魔法だってそうだ。意味のない仮説と結果の間に根拠を見出したがる人間が作り出したある種の妄想。
もちろん、ここでその是非を論じようというのではない。

この、オカルトを取り込んだことで、Call of Cthulhuというゲームは大きく世界観を拡張した。
ルールブックをお持ちの方は、年表が付いているのを知っているだろう。正史、ラブクラフト世界で起こったこと、そして「出来事、オカルト現象、犯罪事件、未来の予測」これがそうだ。
人間の既知科学では窺い知れない不可思議な出来事。
これらの裏側に邪神とその手先が絡んでいたらどうだろう……?
そういう、オカルティズムに意味を見出すオカルトとして、このゲームは世界観をぐっと広げたのだ。

皮肉なものだ。ラブクラフト自身はオカルティズムとは距離を置いており、オカルティズムや通俗的なホラーからかけ離れたものとして新しい「コズミック・ホラー」を創出したというのに。
奇才の仕事は人口に膾炙すると通俗的にならざるを得ないってことだろうか。

しかし、その結果、2020年を生きる我々にとって大変幸運なことに、このゲームは廃れず、多彩な間口を広げて遊び手を待ってくれている。
過去にも、現代のネットワーク社会にも、不可思議は潜んでいる。
さあ、窒息するか発狂するまでダイスを手にして潜ろうではないか。

人間しか作り得ないオカルティズムの闇に。

たけっき